ENTRY
ENTRY
キャリア採用ページ
JP EN

研究、開発、育薬…
「ゾスパタ®」から紐解く
創薬へかける数多の想い

新薬の研究開発は非常に難しく、一般的に新薬の開発成功率は約3万分の1ともいわれています。アステラス製薬では創業以来、新薬の研究開発にチャレンジし続けていますが、中でも2018年に発売した「ゾスパタ®」は、急性骨髄性白血病(AML)の本邦初の薬剤であり、当社の成長を牽引する製品の一つです。新薬開発の裏側にはそれぞれどのような人が携わり、どのようなドラマがあったのか。多くの人々の挑戦と連携によって生まれ、広まり、成長するという創薬のダイナミズムをご紹介します。

  • 創薬アクセレレーター部門 京都大学アライアンス・ステーション 黒光 貞夫 創薬アクセレレーター部門
    京都大学アライアンス・ステーション
    黒光 貞夫
  • 原薬研究所 合成技術第2研究室 北村 剛 原薬研究所
    合成技術第2研究室
    北村 剛
  • プロジェクト推進部 草野 美喜子 プロジェクト推進部 草野 美喜子
  • ファーマコヴィジランス部 メディカルセーフティ 吉村 幸恵 ファーマコヴィジランス部
    メディカルセーフティ
    吉村 幸恵
  • メディカルアフェアーズ本部MSL部 MSL第3G 木曽 鉄生 メディカルアフェアーズ本部MSL部
    MSL第3G
    木曽 鉄生
  • コマーシャル部門 血液がん営業部第1グループ 小川 晶子 コマーシャル部門
    血液がん営業部第1グループ
    小川 晶子

*所属部署・部門名は取材当時のものです

黒光さんはゾスパタ®のもととなるテーマの研究に携わっておられたということですが、この研究はどのようにスタートしたのでしょうか?

黒光 2006年、当時自治医科大学に在籍していた間野博行先生が見出された新知見をアステラスに紹介に来られました。間野先生は新規がん遺伝子(EML4-ALK)を同定され、この遺伝子産物を阻害すると、がん細胞は細胞死に至ること、かつその遺伝子を検出することで治療対象患者を診断できることを示唆していたのです。

これを適応できるのは非小細胞肺がんのうち7%ではあるけれど、EML4-ALK阻害剤はその患者群に対しては奏功することが期待できると示唆されたのです。こういった新たながん治療の可能性に着目し、くすりを開発することは、当時、一般的だったがん治療と一線を画すテーラーメイド医療に繋がると我々は確信しました。

しかし、アステラス製薬は当時、がん領域は競合が多いため参入しないという戦略をとっていました。ですが、反対を恐れず粘り強く上司に掛け合い、2007年1月から間野先生との共同研究がスタート。同年の10月にがん研究室が正式に立ち上がり、会社としても本腰を入れてがん研究に取り組むことになったのです。

会社としても、がん領域への可能性を感じていたタイミングと重なったのですね。

黒光 そうだと思います。事実、現在いくつものがん治療薬が当社の柱となっていますので、その経営判断は正しかったのだと思います。(笑)

ゾスパタ®はもともと肺がん用EML-ALK阻害剤「ASP3026」のバックアップである「ASP2215」として誕生しました。研究を進める中でキナーゼのプロファイリングをしたところ、「ASP2215」はALK遺伝子よりもFLT3遺伝子への阻害活性が強く出たのです。その当時すでにFLT3遺伝子変異がAML細胞のがん化に関与することはよく知られていましたので、この「ASP2215」についてAMLへの適応可能性を探る方向にシフトしました。

当時の研究から、「ASP2215」は、以下の3つの大きな可能性を秘めていると考えました。
1.患者さんにCR(完全寛解※1)を誘導できる 2.延命効果が期待できる 3.自宅でも服薬できるくすりになる

FLT3遺伝子は骨髄細胞を増殖させる中心酵素群の一つです。この酵素群の全部の働きを止めてしまうと、がん細胞の増殖だけでなく、正常な造血も止めてしまいます。それまでのAML治療では、とにかく造血を抑え、体力が許すならば骨髄移植という選択肢しかありませんでした。造血を抑えてしまうと、患者さんは管理病棟の中で過ごすしかありません。これらの課題に対し、キナーゼの選択的なプロファイルからすると、「ASP2215(ゾスパタ®)」は正常造血を復活できる可能性があったのです。治験開始から半年後に届いた開発チームの報告で、実際にがん細胞の増殖を抑え、正常造血が戻っているという事実を目の当たりにした時は、本当に感動しましたね。動物試験で骨髄抑制がなるべく少ないものをスクリーニングしたことも功を奏したと思います。

開発当時、すでに臨床試験(治験)段階に入っているAML治療薬は他にもありましたが、ゾスパタ®がそれらに先駆けていち早く承認されたのは、特徴的なキナーゼ選択性を有していたからだと考えています。

※1がんの治療効果判定において、がんの兆候がすべてなくなった状態

次に臨床試験に向けて原薬や製剤の製造段階に入りますが、今までにないくすりですから、製造についても多くのご苦労があったのではないでしょうか?

北村 ゾスパタは多くの人が協働で検討を進めたプロジェクトであり、その中で私はゾスパタ®原薬の中間体製造の合成プロセス開発や製造所の立ち上げを担当していました。当時としては、かなりアグレッシブな臨床開発プランで進めていたと記憶しています。それに合わせて臨床用の原薬を供給しつつ,早い段階で商用のプロセスをつくる必要があり、苦労したことが印象に残っています。特に中間体の初期の製造方法では超低温下での反応が必要で、大量生産には不向きなプロセスでした。初期はとにかくマンパワーでカバーし、その間にスケールアップ可能な製法を確立することに注力しました。

実はゾスパタ®と同時期に別のプロジェクトでも同じその中間体を使用しており、両方のプロジェクトから次々と製造の要望が来ていたんです。2つのプロジェクトのために5~6カ所の製造所を同時に立上げましたが、そこまでの規模は初めてでしたね。インドや中国など海外にも拠点をつくりましたので、言葉の壁や文化の違い、時差を乗り越える大変さもありました。

黒光 研究段階でも扱いが難しい化合物でしたから、製造は大変だったのではないでしょうか。

北村 確かに、抗がん剤ですから、暴露の危険性もありました。研究員や作業者が暴露しないように、原薬だけでなく中間体についても,注意深く研究-製造を進めていました。

臨床試験のフェーズでは、どのようなチャレンジがありましたか?

草野 臨床試験を加速させ、いち早く承認申請までつなげていくというミッションのもと、私はゾスパタ®の臨床試験立上げから、承認申請までを担当しました。実を言えば、当初類似した作用機序のAML治療薬の臨床試験をすでに進めていたのですが、そちらをストップしてゾスパタ®の臨床試験にフォーカスしました。ゾスパタ®はフェーズ1の臨床試験で低用量の段階から有効性が確認できたこともあり、画期的な新薬として厚生労働省の「先駆け審査指定制度」の対象品目として指定を受けることができました。これにより薬事承認の審査を優先的に進められる一方、指定が取り消しにならないよう、競合品より先に開発を進めなければならないというプレッシャーもありました。

特に苦労したのは、臨床試験の対象となる患者さんの組み入れです。AML自体が希少疾病であることに加え、ゾスパタ®の対象であるFLT3遺伝子変異を持つ患者さんはそのうち約3割。もともと少ない患者さんに、競合品の臨床試験とゾスパタの臨床試験で組み入れが競合する状況でした。

そのような厳しい条件の中、どうやって臨床試験に協力していただける患者さんを集めたのでしょうか?

草野 最も注力したのは、これまで得られている非臨床・臨床データに基づき,治験薬に関する情報を適切に医師に伝えていくことです。私たちからすれば臨床試験であっても、患者さんにとっては「治療」。他の治療法がベストであれば、参加を無理に進めることは決してありません。患者さんお一人お一人に対して、この治療を受けるメリット、デメリットがどこにあるのかを医師と議論をし,一つの選択肢として考えていただけるよう常に模索していました。患者さんにとって良いデータが出てくれば医師のモチベーション向上にもつながりますので、一つずつ課題をクリアし、治療の中にゾスパタの臨床試験を組み込んでいただけるよう尽力しました。

また、日本のAML治療は病院間の連携が取られていることが多いので、治験担当医の主導の下、メディカルサイエンスリエゾンや営業部門とも連携し、治験施設である基幹病院だけでなく、その連携先の病院からも患者さんをご紹介いただけるフローの作成をいたしました。

開発では多くの部門の方との連携も必要なのですね。

草野 はい。臨床開発は上市の前後を問わず、多くの部門の間に入りつないでいく部署です。たとえば初期の臨床試験を行ううえで、非臨床データは欠かせません。医師が臨床試験に対してモチベーションを感じられるようなデータを提示することが必要ですから、さまざまな非臨床データやその解釈を研究部門から教えてもらい、時には臨床試験を実施するために必要なデータの創造を開発から依頼し、臨床試験につなげていきます。

もちろん、製造部門も臨床試験にとって、なくてはならない存在です。臨床試験で使用する薬剤の量を伝え、期日に合わせご用意いただいています。

ファーマコヴィジランス部とは、申請後の医薬品リスク管理計画(RMP)※2策定のやりとりが印象に残っていますね。臨床試験は限定された層の患者さんに対して行いますが、市販後はより広い層の患者さんに薬剤が投与される可能性があります。臨床試験で得られたデータに基づき、安全性のリスクを最小化していくための文書を作成するうえで、データ解釈や対策について議論しました。

メディカルサイエンスリエゾンとは前述のとおり、臨床試験の組み入れ促進に関して協業しました。またメディカルサイエンスリエゾンは薬剤の価値を最大化していくことを目的とした部門ですから、臨床試験のデータを踏まえゾスパタ®のこれからについて多くの議論をしました。臨床試験で得たデータをどのように解釈するのか、今後どのようなデータを出していくことが必要なのかなど、医師の意見をまとめながら今後のプランを検討していきました。

営業部門とは、主に営業戦略の担当者とやりとりをしました。薬剤の適正使用を促すためには、質の高い営業資材の作成が重要です。密に連携をとりながら、得られたデータを適切な表記で営業資材に落とし込む作業を進めました。また営業戦略の立案についても、臨床試験のデータを紹介する立場として参加させていただきました。

※2薬剤のリスクを最小化するために、開発から市販後までの一連のリスク管理を一つにまとめた文章

皆さんのさまざまな努力の甲斐あり、ゾスパタ®は2018年9月に日本で承認されました。発売後、どのような反応があったのでしょうか?

草野 承認取得直後に開催したパーティーで、臨床試験に協力してくださった医師たちから「この画期的なくすりの開発に携わらせてくれてありがとう」「これぞ患者さんが待ち望んでいたくすりです」「これからも一緒にこのくすりを育てていきたい」という熱いメッセージをいただきました。また患者さんの家族から、ゾスパタ®があったことで最期に自宅で家族一緒の時間を過ごせたという感謝の手紙が届いたこともあります。臨床試験の段階から、本当に多くの方に待ち望まれたくすりなのだと感じました。

黒光 研究所で私たちが「これはすごいぞ」と可能性を感じていたあの化合物が、くすりとなって患者さんのがん細胞を減らしたという事実に心が震えましたね。承認取得時はアメリカに出向中でしたが、パーティーに合わせ帰国して、くすりが患者さんに届いたことを実感しました。

小川 AMLは致死的な病気です。AML患者さんの予後にかかわる遺伝子変異が解明されていく中で、それに対応している治療薬はほとんどありません。そのため患者さんが自分は遺伝子変異を持っていると知ったとしても、くすりがなければその情報はただの絶望でしかありません。しかしAML患者さんのうち約1/3が持っているFLT3遺伝子変異は、ゾスパタ®があることで延命や治癒を望めるようになりました。これは本当に素晴らしいことです。

ゾスパタ®の服用だけで、最期の半年を自宅で過ごせた方がいるとお聞きしています。また骨髄移植の前後にゾスパタ®を使用し、移植後3年間トラブルなく状態を維持できている方もいます。こういった患者さんにとって、ゾスパタ®発売以前と以後で運命は大きく変わったはず。そんな画期的なくすりをつくってくださったことに感謝しながら、ゾスパタ®をより多くの患者さんに届け、正しく使っていただくことに使命を感じながらこの仕事をしています。

木曽 AMLは長らく新しい治療法が出てきておらず、本邦における承認治療では17年もの空白の期間がありました。ゾスパタ®はそんな中で生まれた新薬でしたから、AML治療に携わる医師からの期待値は高かったと思います。治療の手応えを感じるという声は上市1年目から聞こえてきていましたが、最近では骨髄移植や造血幹細胞移植との組み合わせにより、臨床での効果が高まるというエビデンスも出てきています。最初は半信半疑だった先生たちも、ゾスパタ®の有効性を感じるようになってきていることを感じています。

北村 私は研究-製造という治療の現場から遠いところにいますが、「ペイシェントフォーカス」という会社の方針はいつも意識しています。年に数回、会社主催の講演会や広報で患者さんの声を聞く機会があるのですが、そんな時は製薬会社で働くことの使命と、この仕事をやっていてよかった、と心から感じますね。

やはり、AML治療にとってゾスパタ®の誕生は大きな一歩だと受け止められているのですね。上市後、ゾスパタ®の価値を創造するという点ではどのような取り組みをされているのでしょうか?

吉村 私はファーマコヴィジランス部でゾスパタ®の安全性に関する情報を評価し、当局に報告したり、評価結果に基づき必要な措置を検討したりする業務を担当しています。安全性を担保するためには、常日頃から安全性に関する情報をモニタリングすることが何よりも重要です。規制に則り当局に報告するだけでなく、会社の立場から全体の情報を俯瞰して安全性を監視し続けています。

過去に認識した副作用は添付文書や営業資材で注意喚起していますが、今、患者さんがそのくすりを服用している状況下においてでもそれらの内容に変更がないか、それらを更新する必要があるのか、ということを注視しています。

安全性に関する情報の更新の一例として、発売後1年くらいたった際に白血病細胞の「分化」に関する注意喚起を添付文書に記載するか、記載する場合にはどのように記載するかという議論がありました。この概念自体が日本ではまだ新しいものでしたので、当局とも密に相談をして「その他の注意」に記載することとなりました。このように添付文書にどう記載するかの判断が難しいこともあります。現在も、実際に白血病細胞の分化に伴う可能性がある症状が確認された症例を総合的に評価し、注意深く監視し続けています。

小川 私はMRとして、くすりを医療従事者の方や患者さんに届けるラストワンマイルの仕事をしていますが、ゾスパタ®を使用した患者さんが分化症候群を発症した症例を実際にお聞きしたことがあります。副作用と思われる症状の原因特定や次の治療につなげるためにも、ファーマコヴィジランス部との連携はとても大切なんです。

草野 同じデータを用いて承認申請した場合においても、添付文書への記載の仕方は各国の当局ごとに考えが異なる場合がありますね。

吉野 添付文書に記載されない副作用であっても注意喚起が必要と判断した事象については、医薬品リスク管理計画書に重要な潜在的リスクとして定め、営業資材などでも重要な潜在的リスクとして記載し、慎重にリスク管理を行っています。

ありがとうございます。メディカルアフェアーズ部門ではいかがでしょうか?

木曽 メディカルサイエンスリエゾン含めメディカルアフェアーズ本部は「育薬」を担うポジションです。メディカルサイエンスリエゾンは、医師から求められた情報や質問に対して情報提供や意見交換を行います。また研究サポートや上市後の通じた情報創造なども関わっており、ゾスパタ®の価値を最大化するためのアクションにつなげています。

ゾスパタ®を担当していた時印象に残っているエピソードとしては、上市後すぐに、先生からあるご指摘を受けたことです。ゾスパタ®を使用するにはFLT3遺伝子変異を調べるためのコンパニオン診断が必要ですが、その検査薬の添付文書の記載に誤りがあったのです。ご指摘をいただいた先生へご説明をしたあと、営業部門とも連携しながら検査薬のメーカーに働きかけ、記載を修正していただいたということがありました。日本ではFLT3を研究されている先生が多いこともあり、それだけ関心が高いくすりだと痛感しましたね。

実際の現場を見ているMRでは、くすりの価値を最大化するためにどのような活動を行っているのでしょうか?

小川 MRというと、医師のところにいって製品の宣伝や情報提供をするだけというイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実はクリエイティブな側面もあります。

特にゾスパタ®のような薬剤は日進月歩で情報がアップデートされる一方で、対象疾患が希少であり症例が少ないため、広く最新の情報を医師に伝えていく必要があります。多くの情報が氾濫する中、信頼性が高く質の高い情報を伝えるうえで、「Dr. to Dr.」という方法は非常に有効です。たとえばフライパンを販売するとして、「焦げ付きにくいですよ」「取っ手が取れますよ」などはフライパンのメーカー(=製薬会社)から伝えることができますが、「このフライパンを使ってどんな料理がつくれるのか」は実際にフライパンを使っている人(=医師)から伝えるほうがより説得力が増しますよね。具体的にこんなふうに処方すれば安全かつ効果が得られやすい、ということをKOL※3の医師から発信していただくことが、私にできるゾスパタ®の価値創造における重要なチャレンジだと考えています。

講演会やWebシンポジウムを通じて、使用経験の豊富な医師から、使用経験の浅い医師に直接情報を伝えていくということは、MRが主体的に取り組める仕掛けづくりの一つ。今どんな情報を発信していただくのがゾスパタ®の価値向上につながるのか、ということを常に考えながら、MSLを始め他部門の方たちとも連携していくことは、これからのMR像を描くうえでも大切な仕事だと考えています。

※3Key Opinion Leader(キーオピニオンリーダー)の略称。医療業界で多方面に影響力を持つ医師などのこと。

AMLは症例が少ないことでの難しさがあるのですね。

木曽 FLT3変異陽性AMLは希少疾患ですので症例が集積されるまで時間がかかりますが、上市後数年経てから、まとまった症例数のデータ(エビデンス)が報告され始めた状態です。治療でゾスパタ®が使用されるうえで、医師と意見交換をしながら価値を理解していただく必要があり、それが私たちメディカルサイエンスリエゾンやMRの重要な仕事の一つです。

小川 国際学会や、インパクトファクターが大きい海外の学術誌で論文を発表したくても、症例が一定数集まっていないと掲載が叶わないことも。そのため症例の多い海外のハイボリューム施設の後追い研究になってしまいがちだという医師の悩みはよくお聞きしています。

吉村 全体に対する一例の重みがありますね。

今後、ゾスパタ®について期待されていることを教えてください。

小川 複数のくすりを併用するにも承認が必要なのですが、現在承認外の併用をしてみたいという声など、ゾスパタ®をフロントライン、ファーストラインで使用できるようにしてほしいという要望はよくいただきます。適用拡大に関してのご希望は多いですね。

木曽 ゾスパタ®は、FLT3以外にも種々のキナーゼに対する阻害作用を有する事から、肺がんなどAML以外のがんへの適用の可能について、医師からメディカルサイエンスリエゾンへ相談をいただきます。さまざまながん領域でも期待されているくすりであると考えられています。

草野 確かに他の癌腫での開発要望や、共同開発のご相談をいただくことはあります。会社の戦略のなかでどこまで応えられるのかという問題はありますが、薬剤の価値最大化に向けて、より多くの患者さんに使っていただくための努力は進めているところです。たとえば少数ながらも小児患者さんへの適用は、現在臨床試験中です。ゾスパタ®の価値を見出せるところ、より可能性を広げていけるところはないのかを常に模索しています。

また、ゾスパタ®を服用する患者層を広げていくのとは逆に、どういった特徴を持つ患者さんに対して特に効果が高いのか、という細かな層別化をしていくことも、価値向上においては重要だと考えています。

最後に、ゾスパタ®の研究開発やその後の価値創出において学んだことや、携わる中でやりがいを感じている点を教えてください。

黒光 ゾスパタ®が成功したポイントとして、「効く人」を選んで研究開発がスタートした点が挙げられます。特定の遺伝子変異などのターゲットを決めてアプローチするのはもちろんですが、その特徴を持つ人を特定する方法までがセットになっていなければ意味がありません。ゾスパタ®の研究を通じ、コンセプトを明確にした、スピード感のある研究開発を心掛けるようになりました。

木曽 実は私はもともと研究部門の出身で、黒光さんの部下として働いていました。研究所ではバイオロジーに基づき、非臨床試験において有効性を判断していましたが、メディカルサイエンスリエゾンに配属されてからは実際の患者さんへの効果を肌で感じることができるという点が、最大のやりがいになっています。反面、患者さんに貢献できなかった時の不甲斐なさや悔しさも大きいのですが。

また、ここ数年でゾスパタ®の新たな可能性も見えてきました。上市から長くかかわってきた立場からすると、これからの展開がとても楽しみです。

北村 まず、原薬と製剤を安定的に供給し、必要な患者さんに確実に届けるということに使命感を持って取り組んでいます。そしてもう1つやりがいを感じるのは、自分で製造のプロセスを構築すること。スケールアップができるプロセスを自分で設計し、それを実際にスケールアップできた時は本当に嬉しいですね。それがゾスパタ®のように製品となって患者さんへの貢献につながっていくと、さらに喜びはひとしおです。

吉村 医薬品は有効性と安全性がないと使えません。安全性を監視し続け、新たな注意喚起の必要性が出てくれば、それを適切に周知することで、ゾスパタ®を安全性の面から支えていきたいと思います。

小川 私は一番医療従事者の方に近いところにいるので、医師から「次のお正月が迎えられるかどうか・・・と思っていた患者さんですが、2回目のお正月も自宅で迎えることができました」というようなメールをいただくことがあり、それはとても嬉しい瞬間です。

価値ある薬剤を広めていくための活動を通じて、今までFLT3変異検査に消極的だった医療機関が検査をするようになった、骨髄移植後のゾスパタ®使用に懐疑的だった医師が移植後に使用を再開してくれた、など、行動が変わる瞬間を目の当たりにしてきました。そんなゾスパタ®の価値が伝わったことを見届けた時は、MRとしてのやりがいを強く感じます。

草野 開発においては、承認を取って患者さんのもとにくすりを届けられるというのが何よりのやりがいです。会社のメンバーをはじめ、先生方、行政機関などの力を結集し、「患者さんのために」という一つの思いを胸に進んでいきます。それが達成できた時に、この仕事をしていてよかったと心から思いますね。

この座談会を通じ、長い時間をかけて多くの方々の思いが一つになり、新薬という希望が生まれる様子を垣間見ることができたのではないでしょうか。
これからもアステラス製薬はチャレンジを続けます。患者さんのために、そしてまだ見ぬ未来のために。