アステラス製薬

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新薬ができるまで

高い志と意欲で
創薬の最初の一歩を担う

スーグラの研究開発プロジェクトは、SGLT2と呼ばれるタンパクの働きを阻害する化合物を見つけるところから始まりました。化学研究所が化合物を合成し、薬理研究所がそれを評価する。両者でキャッチボールを繰り返しながら、優れた活性を持つ化合物を見出し、物性、代謝、安全性なども検討したうえでヒトに投与する臨床試験へと進みました。困難な研究を突破し、スーグラの最初の一歩を担った二人に、研究の醍醐味を語り合ってもらいました。(研究所の名称は当時。現在は組織改訂で名称が異なります)

従来からの発想を転換、斬新なテーマに挑戦

――プロジェクトはどんな形で始まったのですか。

  1. 黒﨑

    私は薬理研究所で創薬のテーマを探索するところから関わっていました。以前から糖尿病領域を担当していたのですが、発想を転換し斬新なテーマに挑戦したいと考えたのが、そもそもの始まりです。以前からSGLT2と呼ばれるタンパクが、腎臓の尿細管でブドウ糖を再吸収する働きに関係していることが知られていました。その働きを阻害すれば過剰なブドウ糖が体外に排出され、血糖値が下がるはずだという発想が、この創薬テーマの原点。この考え方は従来から社内にあったのですが、世界的にあまり研究が進んでいないこともあって、研究テーマを選定する際の優先順位は低かったのです。

  2. 今村

    テーマ選定は非常に重要ですし、各研究員それぞれにやりたいことがある中で、根拠のあることを主張しないと説得力がありません。研究所あるいは会社全体に影響する決定になるので、上司のチェックも厳しいものがあります。

  3. 黒﨑

    ちょうどその頃、世界的に研究が進み始めた時期でした。さまざまな文献や特許情報を徹底的に調べたところ、他社もSGLT2阻害薬の研究に動き始めていることがわかったのです。いまこのタイミングで研究をスタートさせないと、もう追いつけなくなる。そういうギリギリのタイミングに来ていたので、研究開始を必死に主張しました。

  4. 今村

    それでも社内は賛否両論でしたね。

  5. 黒﨑

    糖尿病に詳しい人ほど、この全く新しい機序に対して異論を唱える傾向がありました。本当に糖尿病患者さんへ貢献できるテーマなのかどうか、常に問われ続けました。

  6. 今村

    ただ、やってみないと誰にもわからない。このテーマに賭けてみるだけの価値を見いだせるかどうか。

  7. 黒﨑

    結局、可能な限りあらゆるデータをそろえ、熱意を持って説明するしかありません。テーマ選定の段階では、その本気度が試されているともいえます。後押ししてくれる上司や仲間に恵まれたことも幸運でした。

特殊な構造の化合物を高い技術で合成

――研究にはどんな困難があり、どうやって乗り越えたのですか。

  1. 今村

    私たちの使命はSGLT2というタンパクの働きを阻害する化合物を見出すことでした。リンゴの樹の皮に含まれるフロリジンという天然物にSGLT2の働きを阻害する作用があることは、古くから知られていました。そこで、フロリジンの構造や既知の特許情報をベースに、自社オリジナルとなる新しい化合物を見出すべく研究を始めたのですが、フロリジンは配糖体に分類される天然物で、特徴のある構造をしており、その誘導体合成は比較的難しいものでした。

  2. 黒﨑

    今村さんは、当時がん領域で創薬研究を行っていたのですが、学生時代に糖類の合成研究を行っていたことから、このプロジェクトに参加することになった経緯があります。あえて選抜された専門家が難しいと言うわけですから不安もありました。

  3. 今村

    最初は鳴かず飛ばず。そもそも誘導体の合成が難しく、やっと合成できても薬理研究所で評価を行ったら、活性がないということが続きました。チームで1 年近く格闘して、ようやく活性のある化合物を見出せるようになりました。

  4. 黒﨑

    今村さんたちがデザインし、合成した化合物を私たちが評価し、そのデータをもとにより良い化合物に改良すべく再びデザインと合成を行い、それを再び私たちが評価する。化学研究所で並々ならぬ苦労の末に作った大切な化合物ですから、私たちは1化合物たりとも手を抜くわけにはいきません。そういう緊張感の中で、今村さんたちを信じて評価していました。その結果、糖尿病治療薬として期待できる活性を持ち、物性、代謝、安全性の面でも一定の基準をクリアする化合物が見つかったのです。

  5. 今村

    2001年10月にプロジェクトがスタートし、2003年初頭になってようやく、私たちの間でYM543と呼んでいた化合物を次のステップである臨床試験に進める準備ができる、という状態になったのです。自分達がデザインした化合物が臨床試験に進むのは初めてだったので、臨床試験の準備が整い、Phase1試験が開始されてYM543をヒトが飲んだと聞いたときには、とても感動しました。ただ、YM543は合成法やその他に課題を抱えていたので、臨床試験に向けた準備が開始された後も、課題点を解決し、より良い化合物を見出すために研究を続け、YM543のバックアップ化合物としてASP1941(後のスーグラ)を見出しました。

  6. 黒﨑

    ところが、ASP1941にも問題が起きてしまいました。

  7. 今村

    結晶の物性がくすりとするには不安定で、「この結晶では臨床試験はできない」と創薬物性の担当者から指摘されたのです。そこで安定な結晶を見出すために、短期間で様々な検討を行った結果、くすりとしてはかなり珍しい共結晶という形態を見出し、無事に臨床試験に向けての準備を進められるようになりました。後に、臨床試験の途中でYM543をASP1941に置き換えることとなり、スーグラが誕生するに至ることとなりますが、これは臨床開発部の方々が大きな決断と様々な工夫をしてくださった結果でもあります。

チーム一丸となり、創薬の醍醐味を存分に味わう

――このプロジェクトでやりがいを感じたところ、研究者として得たものは、どんなことですか。

  1. 今村

    ある疾患の原因となる生体内物質(創薬のターゲット)、今回の場合はSGLT2というタンパクですが、それに対して望む作用を持つ化合物を見出すことが創薬化学研の使命です。とは言え、最初から望む作用を持ち、望まない作用を持たない、そのままくすりと成り得る化合物が見つかるわけではありませんので、原石の段階から徐々にピカピカのダイヤモンドへと磨き上げる必要があります。そのために化合物をデザインし合成する作業を繰り返します。「今日デザインし、明日合成したものが、くすりになるかもしれない」というワクワク感があり、大変やりがいがある仕事です。

  2. 黒﨑

    くすりを作るのは「なんと難しいことなのか」という思いと、どんな困難があっても「決して諦めずにチーム一丸となって取り組めば、必ず乗り越えられるのだ」という思い。これが創薬の醍醐味なのだということを存分に味わったプロジェクトでした。

  3. 今村

    絶対にくすりになる化合物を見つけるぞという強い気持ちを持っていましたが、長い年月の中では気持ちが折れかけることもありました。そんな時、必ず誰かが気持ちを持ち上げてくれる。そんなチームワークも成功の背景にあったと思います。

  4. 黒﨑

    私はいま研究職を離れ、プロダクトマーケティング部に所属しています。研究所で培った経験や知識を基に、スーグラが一人でも多くの患者さんに貢献できるよう適正使用を推進しています。創薬の最初の一歩を担った者として、スーグラをしっかり育てていきたいと思っています。

  5. 今村

    プロジェクトに参加して以降、申請に至るまでの道のりの中で安心したことは一度もありません。臨床試験は会社としても大きな投資になるので、そこに見合う結果が出るのか、臨床開発の進捗をドキドキしながら見つめていました。ですから、承認申請した時は本当に嬉しかった。私たちのような創薬研究者は、くすり創りの上流に位置していますが、今回のプロジェクトでは患者さんにくすりを届けるところまで関わることができ、大きな財産となりました。今後も“自分がくすりを産み出すんだ”というバイタリティーにあふれた若い創薬研究者とともに1つでも多くのくすりを産み出すことに、この経験を生かしていきたいと思います。

※所属は掲載当時のものです